2012年12月24日月曜日

カエルノ話:取材こぼれ話「原木椎茸編」

現在、カエルノワで発行中の新聞「カエルノ話(ワ)」。
配布にご協力いただいたお店と幼稚園をご紹介いたします。
仙台ゆんたみどりの森幼稚園NotreChambreensoleille
佐藤商店wasanbon横田やオーク(順不同、敬称略)。
それぞれとても魅力的なお仕事をされている方々で、
カエルノワの活動に賛同していただき、大変心強く思っております。
この場をお借りして、深く感謝申し上げます。

また、仙台市内ののびすくにも置かせていただいております。
お手にとってくださった方、カンパのお申し出をくださった方、
本当にありがとうございます。



さて、現在、2号を準備中でして、
今日は「イキモノ電話相談室」の記事のために、
宮城県北に位置する登米市、迫町の原木椎茸農家の取材に行ってまいりました。

















1.原木椎茸を取材することになったきっかけ

原木椎茸のことは、ずーっと気になっておりました。
震災後、スーパーから姿を消した原木椎茸。
野菜の移行係数(土壌や原木に含まれたセシウムを植物がどのくらい吸収するか、
を計算するための割合)は0.008~0.3なのに、椎茸は2!
原木が100bq/kgなら、その原木で栽培した椎茸は、200bq/kgになるということです。
栽培農家の方はいったい、どうされているのか・・・。

9月に開かれた「放射能被害を語る宮城県民の集い」で、
迫のしいたけ部会会長、高橋龍一さんから、
宮城県の椎茸農家の窮状をお聞きし、胸がつぶれる思いでした。
その後、登米の農協の方に、高橋さんの連絡先を教えていただき、
今回、取材させていただくことになりました。



2.原木椎茸を栽培するには?


 

にょきにょき椎茸を前に、椎茸栽培のノウハウについて熱く語る、
迫しいたけ部会部会長高橋龍一さん。



収穫前の椎茸たち。にょきにょきです。見渡す限りにょきにょきです。
直径10cmの原木に種菌を植え付け、半年熟成させた後、一晩水に浸けます。
その後、上の写真のような棚に置いて、椎茸が生えてくるのを待ちます。
重い原木の上げ下ろしは、大変な重労働です。
高橋さんは、親子で毎日500本の原木の上げ下ろしをしているそうです。




山梨の種菌メーカーで購入している種菌。
白いカビのようなものが、菌です。
これを原木に植えつけて、椎茸を作ります。
種菌メーカーなる存在を、初めて知りました。





収穫は手作業。





パック詰めの様子。



3.椎茸栽培のいろいろ


まず、椎茸には菌床椎茸と原木椎茸がありまして、
菌床椎茸は、おがくずに種菌を植え付けて栽培するのに対し、
原木椎茸は、クヌギやミズナラ、コナラの木に種菌を植え付けて栽培します。
菌床椎茸の方が、大量生産に向いていますが、
味や香り、食感は、原木椎茸に比べると、落ちます。

原木椎茸は、さらに施設栽培と、露地栽培に分かれます。
露地栽培は、種菌を植え付けた原木を、山林に置き、
椎茸に山の空気を吸わせます。
松林に置けば、松の香りが、杉林に置けば、杉の香りのする椎茸ができます。
また、施設栽培よりもゆっくりと自然のサイクルに合わせて成長するため、
とっっても美味しい椎茸ができます。

施設栽培の場合、種菌を植えるところから椎茸の発生、収穫までの全ての行程が、
ビニールハウスの中で行われます。
高橋さんのお宅は、原木椎茸の施設栽培にあたります。



4.指標値以下の原木を求めて

今年の4月、宮城県の露地栽培の原木椎茸に、出荷規制がかかり、
露地栽培の椎茸農家は、休業を余儀なくされました。
露地栽培の農家の方は、自分の山から原木を切り出している方が多く、
原木を購入するルートを持っていません。
そのため、50bq/kg以下の指標値をクリアする原木を入手することができませんでした。
震災前、福島と宮城の原木は、良質なことで知られ、
日本全国に出荷されていました。
日本に流通する原木の3分の1が、福島産だったと言われています。
しかし、現在、福島と宮城、岩手の盛岡以南の原木は、
出荷規制され、林業も大打撃を受けています。


高橋さんも、震災後、指標値以下の原木を購入するために、奔走することになりました。
震災直後、丸森と岩出山で野ざらしになっていた原木を購入してしまい、
11,000本の内、8,000本を廃棄することになりました。
その後、一迫の原木を、高圧洗浄機で除染して使おうとしましたが、
2012年の春に、食品の規制値が500bq/kgから100bq/kgに変わったことから、
原木の指標値も150bq/kgから50bq/kgに変わり、
結局、一迫の原木も廃棄することになりました。



しかし、廃棄する場所も確保できず、8,000本の原木は、
写真のように、敷地内に野積みされています。


今は、岩手の盛岡より北、久慈地方の原木を取り寄せて、
使っているそうです。
ただ、宮城県内の原木であれば、1本170円だった原木が、
岩手県から取り寄せると、運賃がかかり、1本220円に。
10,000本取り寄せると、500,000円のコスト増になります。
被害額を東京電力に請求していますが、まだ半額しか支払われていません。


そして、大変残念なことに、岩手の原木を使っても、
20bq/kg前後のセシウムが検出されています。



1kgの椎茸。
大体20~30個の椎茸が入っています。


5.東北、関東以外の原木を購入することは可能か?


素人としては、北海道や西の原木を取り寄せればいいのでは?と、
単純に考えてしまうのですが、
原木は乾燥した冬に伐採しなければなりません。
原木にカビが生えるのを防ぐためです。
雪深い秋田や、北海道は、冬に伐採することが難しく、
原木を扱っている業者も少ないそうです。
西の原木を仕入れることになると、
東北にはいない害虫を招くことにもなりかねません。
また、その土地によって、同じ木でも性質が違うため、
気候の違う東北で、果たして従来の方法で椎茸栽培が可能なのか。
岩手から取り寄せるのに、1本につき、50円のコスト増。
西から取り寄せるとなると、一体いくらかかるのか?
これまで、福島、宮城の原木が日本中に流通していたため、
福島、宮城以外の原木業者は、非常に数が少ない。
その上、福島、宮城の原木が出荷規制されているため、
今、日本中の原木椎茸農家は、指標値以下の原木を探している状態。

・・・などなど、たくさんの難題がありました。


6.出荷規制の問題点

また、出荷規制の仕方にも、高橋さんは疑問を感じていらっしゃいました。
登米市で、秋田の原木を特別に取り寄せ、
針葉樹林で露地栽培を試みたそうです。
針葉樹林は広葉樹と違って、落葉しないため、
セシウムの多くは葉に吸着して移動しにくいのでは、
という推測のもとでの、実験でした。
その結果、検出限界10bq/kg未満で、不検出だったそうです。
しかし、「露地栽培である」というだけで、出荷することはできません。

原木椎茸の原木は、農地と違って、移動することができます。
また、生産者の方も現状を打開しようと、様々な努力をされています。
地域全体に出荷規制を敷くのではなく、
個別に規制し、解除することが、生産者の方の意欲につながるのでは、と思いました。



7.里山の暮らしと原木椎茸

高橋さんのお宅では、毎日、カマドでご飯を炊いています。




高橋さんはかつて、20年に一度、周辺の山から原木を切り出していました。
原木栽培では、たくさんの木が使われますが、
木を切ることで、切り株から新しい芽が出て、
里山の環境が守られてきました。
切り出された原木は、椎茸栽培で使われ、
2年経って、役目を終えた原木は、燃料になり、
灰は農地にまかれてきました。

連綿と続いてきた循環が、原発事故によって断ち切られました。
その代償は、決してお金でまかなわれるものではありません。





ちなみに、高橋さんのお宅では、肉牛も飼ってます。
お隣に住む親戚の方は、乳牛・・・。
「ウチは放射能被害フルコース」(高橋さん談)。
登米市には、高濃度に汚染された稲わらを保管する、
一時保管所があります。


高橋さんは、安全な椎茸を作りたい、と繰り返しおっしゃっていました。
でも、今、作っている椎茸は不検出ではない、と。
市場で売れ残って「処分したい。」と電話がかかってきたこともあるし、
1パック10円で買い叩かれたこともある。
取引が停止になったこともある。
今後、原木が手に入るのか、不安もある。
国よりも、消費者が怖い。
でも、何とかここで前向きにやっていきたい。


宮城の山林が元に戻るのに、100年かかると言われています。
100年後、私達の孫は、どんな暮らしをしているでしょうか?
宮城の食をめぐる環境は、どのようになっているでしょうか?
里山の暮らしと一体になった「宮城の原木椎茸」を、
食べることができているでしょうか?




高橋さんご一家には、お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただき、
さらにお土産まで頂戴しまして、本当に感謝しております。
大切にいただきたいと思います。
本当にありがとうございました。


「カエルノ話第2号」は、1月発行予定です。